記憶の果てへの旅

ヒトは旅をしている。セイシェル、チリ、カザフスタンモーリシャスリトアニア、日本に、忙しく移動してその地を訪れ、素晴らしいものを見て、不思議な体験をして、記憶の澱として残るような旅の残滓を両手目一杯に。そうしてまた会社に行き、学校に通い、疲れて、打ちひしがれて、涙を流さずに泣きながら眠る。みんなかわいそうな子なんだ。
旅は可能なんだろうか? 僕は不可能だと思う。旅が可能なのは、旅をしている時だけだ。けれど、旅をしている時はみんなかわいそうな盲だ。とろとろに熔けて海に落ちていく夕日も、夢景色のようなスコールの飛沫も、エキゾチックな'Vertigo'のネオンサイン、人間と地球が作り出した素晴らしい神殿から覗く空、誰も知らない誰かの墓、いつだって誰もが見過ごして置き忘れてきたものたち……。
ただ一つだけ、人間にも可能な旅があるのかもしれない。それは自分自身への旅、いや、それはもはや「冒険」と呼べるだろう。目も開かず、耳も聞こえず、香も匂わず、何も触れられない冒険だけれど、僕たちの中にはきっと不思議な宝物が隠されている。人体は宇宙だとよく言うし、もしそうなら数ヶ月前からこちら、僕は宇宙旅行をし続けていることになる。けれど、僕が目指すものは宇宙の果て、僕自身の中にある素敵なあなたなんだ。わくわくするような冒険がしたいな。いつか歩いた菜の花畑への旅、記憶の果ての旅、僕はしばらく旅に出ます。みんな一緒に行こうぜ!