僕は瞬間で紅葉していく

もうすっかり寒くて、びゃっと吹く風に服を押さえながら、袋握りしめて噴き出した汗を拭く。笑う門には福来たるだなんて復唱してみるけれど、もっと冷たい風が吹いたら降伏しちゃうんかな。幸福の譜面を駆け上って、思い出すことはやっぱり秋。
紅葉は昔、「剛情張ると蹴飛ばすぞ」と言って本当に蹴飛ばした。
秋の嵐山の紅葉は、見事だから不思議だし、不思議だから見事だ。息苦しいほどの汚い落葉に包まれて、私は道に迷ったんだった。崖下にある墓の群れを夢中になって写真に収め、こちら側に帰ってきた後で油で描いた。何度も同じ婆さんが下の方からやってきては、ちらりと私を見遣って左に切れていく。婆さんはもみじの葉っぱで靴の中をいっぱいにしていた。
月が綺麗ですね、と言うのでは足りない。言い換えたり、遠回しに言ったり、目で合図するだけじゃダメなんだと思う。はっきり「愛しています」と伝えた時こそ、僕は瞬間で紅葉していくんだ。